経験を「自然と学ぶ」が苦手な発達障害・グレーゾーンの子のSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)は、適切なコミュニケーションのとり方、暗黙のルール、セルフコントロール、アンガーマネジメント、危機管理、性教育、そして自己理解と他者理解などについて、その都度ひとつひとつ教えていくことで、社会面での経験値を上げていくことができます。
■空気が読めない?
ASD(アスペルガー・タイプ)の子は特に、対人コミュニケーションにとって必要な、
・空気を読む
・相手の気持ちを想像する
・状況を臨機応変に判断する
・本音と建前を使い分ける
…といったことが苦手なため、思ったことを正直に口に出してしまったり、妥協や譲歩ができなかったり、一方的に自分の興味・関心のあることを話し続けてしまったりするため、協調性に欠ける印象を与えてしまい、対人関係につまづきやすい傾向があるようです。
しかし、こういった子は本当に「人の気持ちを考えていない」のでしょうか?
私はそうは思いません。感覚過敏などにより、特有の感覚を持ち合わせているため、「他人が自分とは違った物事の感じ方をすることに気づいてないだけ」なのではないでしょうか。
文字通り「ものの捉え方・感覚が違う」んですね。それでも、発達障害の特性がありながらも「人の役に立ちたい」という強い想いを持ち、歴史に大きな功績を残している偉人の例もありますし、他人や世界や人類のことを人一倍考えることだってできると言えるでしょう。 元々体質的に他人の模倣をすることが苦手な場合、「自然と学ぶ」が難しいように思います。
また、情報の選別や記憶の適切な参照が苦手な場合には、「失敗すれば気づく」はハードルが高いことでしょう。
■SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)
では、ASDを始め、発達障害の傾向のある子が社会的なスキルを身につけるにはどうしたらいいでしょうか。
SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)は文字通り社会的なコミュニケーションスキルのトレーニングです。
子どもに他者との言語・非言語での適切なコミュニケーションのとり方を教え、社会的なルール、マナー、TPO、友だち関係、暗黙の了解、自己管理、セルフコントロール、アンガーマネジメント、危機管理、性教育…など、社会生活を送る上で必要なスキルを丁寧に分かるように教え導くこと全てがSSTです。各種書籍やワークブックなどの形で市販されているものもありますし、成人向けのSSTプログラムなどがある医療機関や各種支援団体などもあります。
SSTに家庭で取り組む場合、基本はここでも「見える化」です。
「生活の工夫」などと同様、「自分・他人のきもち」「暗黙のルール」など、目に見えないものを、図やイラスト、数値、手順カードや箇条書きなどで、目に見えるようにして根気よく教えていきます。
SSTの身近なヒントとしては、例えば、子ども向けのマンガなどは、分かりやすい表情と文字での会話が視覚的に表現され、シンボリックに「空気の見える化」がされ、登場人物の心の中で思っていることもフキダシの中に描かれています。
これを参考に、子どもとの会話の中で筆談等にマンガ的表現を活用したり、SSTに役立つマンガ作品等を与えることで、子どもの興味・関心を引きやすく、楽しみながらコミュニケーションの例を学べ、語彙も増えやすいので、家庭でのSSTには手軽でとてもいい手法だと思います。
伝えるポイント
子どもと一緒に「こういった時にはこうする」などをまとめた「ルールブック」などを作っておくこともSSTに役立ちます。その際、親が伝えておきたいことはたくさんあると思いますが、子どもに伝わりやすい、受け取りやすいポイントがあります。他のサポート同様、
・短い言葉を箇条書きで、具体的に書く
・肯定語で、やってもいいこと、望ましい行動を書く
・図やイラスト、写真など、視覚的な情報を入れる
・メリットやソントクなど、合理的な説明をする
…等を、基本にするといいでしょう。
それに加えて、予測や見通しのつかないことが苦手な子、完璧主義で失敗を恐れる子、負けず嫌いの子、不安感の強い子などの場合、自己肯定感を高める接し方を心がけつつ、
・予定変更の可能性や、負ける可能性などがあること
・負けたり失敗した時や、予定どおりに行かない時には「こうすれば大丈夫」という対処法をカード、リストやマニュアル、フローチャートなどにする
・自然災害や事件事故などの不測の事態について、日頃からニュースなどを見ながら話し合い備える
…といったことを、事前に伝えて心の準備をすることで、不安感を和らげ、集団行動や社会的な活動への参加のハードルを下げ、不測の事態の時のパニックを回避できることもあります。
客観視
もう一つSSTで大事なのは客観視(セルフモニタリング、内観)です。自分の感情や体調、他人の感情などのレベルをスケールを使って「見える化」しながら表現することで、セルフコントロールの練習になります。
「自分の気持ちを周りに分かってもらえない」「どう表現したらいいのか分からない」などから、子どもが感情を爆発させたり、かんしゃくやパニックにつながることもあるからです。
当HPのシェアツールの「きもちスケール」や「ステータス・ゲージ」などは、子どもが視覚的・数値的に「これぐらいイヤだった!」と表現できるので、それだけでも気持ちを落ち着けることができます。
慣れてくると、スケールがなくても気持ちを言葉で表現しやすいでしょう。自分の気持ちを言葉で表現できれば、「人の気持ちを考える」など、次の段階に進めることができます。
また、声の調節が苦手な子や、その場に合った声量の使い分けが難しい子などには「こえスケール」、困っていることを言葉で上手に伝えられない子などには「困りスケール」、自分の疲労感に気づきにくい子には「疲れスケール」など、その子に合わせたスケールを活用することで、客観視と自己理解、セルフコントロールがしやすくなります。
こういった習慣は、成人となった時にも役立つでしょう。
記録・フィードバック
先述のように、発達障害の傾向のある子は「自然と学ぶ」「失敗すれば気づく」が苦手なことが多いようです。
ですから、対人関係を経験から自然と身につけたり、過去の記憶を適切に参照し臨機応変に応用する…などがしにくく、また、不注意性や過集中の傾向があると「周りを見ながら動く」などもハードルが高くなるため、こちらは「この年齢なら、当然分かっているハズ」と思っていることが十分分かっていなかったり、勘違いしたまま理解していることもあります。
これを「未学習」「誤学習」といい、「本人が困ったり、嫌な想いをすれば、そのうちできるようになる」と放置しておくと、大人になってもできないまま、という可能性もあります。
これは周りの大人が、少しだけ丁寧に、ひとつひとつ教えていくことで、身につけることができます。
そして、もう一つ大事なのが、取り組んだ過程や意欲、その子なりの進歩、少しでもできたことなどを、その都度フィードバックし、写真などで見えるように記録してあげることです。
きょうだい児や他の子と比較してもプレッシャーになってしまいますが、過去のその子自身と比べることは励みになります。
口頭でも「一年生の時は泣いてたけど、泣かずに参加できたね!」など、以前からの進歩や成長を認める声かけをしていきます。
こうすることで、経験を蓄積しやすくなるとともに、「できた!」成功体験を自分のタイミングで何度も味わえるので、失敗や注意・叱責体験が多くなりがちな子でも、自己肯定感を高めていくのに役立ちます。
視覚的に分かりやすく伝えることで、子どもにコミュニケーションや社会的なスキルを教えていくことができます。
丁寧にひとつひとつ教えれば、どんな子も「で
きた!」を増やすことができ、更に記録・フィードバックすれば、経験を蓄積しやすくなります。
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