最近、タレントさんの影響で「モラルハラスメント」「モラハラ」という言葉が随分注目されました(※blog記事初出:2015.4.23公開)。
周りから分かりにくい・見えにくいモラハラについて、広く一般の方に理解が広まる一助になったのはよいことなのだろうなと思います。
モラルハラスメントは夫婦間でよく起こりがちな問題というイメージがありますが、実は職場でも学校でも、日常的に起こっていることがよくあるようです。
「皆に」「毎日」「些細なことまで」注意・叱責され続けると、大人でも頭が真っ白になったり、恐怖心を感じて仕事に行けなくなったりして、心の病になる人もいます。
相手は「正しいこと」をしているので、やってはいけないこと、という自覚はありません。
悪いのは本人なのだから、注意するのはむしろよいこと、ほめられること、相手のため、と思っている場合もあります。
大人の世界ではこれをモラルハラスメントと言います。
「モラル」という「正しいこと」を根拠に、正論で相手をねじ伏せ、「自分がいけないんだ」「自分はダメな人間なんだ」と思わせ、思考力・判断力を奪い、恐怖心を植え付け、屈服させ、管理・コントロールできる状態に置く行為です。
そしてそれは周囲からはとても見えにくいのです。ひとつひとつは取るに足らない、細かな注意・叱責で、原因を作っているのは本人だから、という目で見てしまいがちです。「正論」なので、そのことをおかしいと気がつくことは難しいのです。
「正しいこと」をすることが、いつも一番よい方法とは限りません。
また、モラハラの加害者となる人は、一見とても誠実で正義感溢れる好人物として周囲から信用を得ている場合も多いので、いつもミスや失敗を繰り返す被害者側が窮状を訴えたとしても「考え過ぎ」「気にし過ぎ」「おまえが悪いんじゃないの?」と言われてしまって、理解を得ることが難しく、ますます孤立感を強め、追い込まれてしまいます。
子どもの世界でも、同じことが起こり得ます。
特に、発達に凸凹を抱えた子ども達は、ツッコミドコロが満載なので、ただでさえ、注意・叱責を受けやすい行動を取ってしまいます。
空気を読んだり、状況判断するのが苦手で、その場にそぐわない行動を取ったり、不注意や衝動性で危ないことをしてしまったり、不器用さや気持ちの切り替えの苦手さから、なかなか取り組めない・時間がかかる、など、「皆に迷惑をかける」ことが多くなってしまいがちです。
そうすると、集団の中で「◯◯くんがいけないことをしているんだから、注意してもよい」という雰囲気が出来上がっていくことがあります。
勿論、必要な注意もあります。例えば、登校中に皆が遅刻してしまう行為など、大きく他人に迷惑をかけることや、車道に飛び出すなどの命の危険があること、など。
これらは、しっかり本人の課題として教えていく必要があります(本来、大人の仕事です)。
ですが、さほど問題とは思えないようなことまで、最初から「注意をする」ことを目的として、皆で(あるいは一人から執拗に)その子の些細なミスを見つけ出して指摘する…といった様子がみられることが続いたら、「うちの子が悪いとは思うんだけど……」「大げさかもしれない」と思っても、親は早めに対応したほうがいい場合もあります。
小さな芽のうちに摘んでおけば、「いじめ」に成長させずに済みます。
また、発達が凸凹とした子のほうも、こだわりが強く、
・一度受け入れたルールを変更できない、例外が受け入れられない
・無秩序なことや、予測できないことに不安が強い
…など、真面目過ぎるところがある場合や、自分自身がいつも注意や叱責を受け続けている場合、他人のルール違反を指摘したり、自分のやりかたを押し付けてしまう、自分が言われたのと同じように注意・叱責してしまう、といったこともあります。
うちでは「人は人」として線引きする基準や「何事も100%絶対ではない」ということなどを、「注意レベル表」に書いて話しています(それでも、体質的なこともあるので、なかなか難しい面もあるでしょう)。
「正しいことをしている」と思っていると、大人も子どもも相手を傷つけている自覚がないままエスカレートしてしまいがちです。気になるところがあれば、早めに「いくら正しくても、それは行き過ぎだよ」「そういう言葉・行為はモラハラなんだよ」ということに気づいてもらう必要があるでしょう(悪気なく無意識にしている場合は、気づく、自覚するだけでやめられることも)。
それと同時に「この子は守られている」「何かあったら親や先生と意思疎通ができる」「情報はオープンになっている」ということをアピールします。
大人のモラハラの場合もそうですが、加害者側は情報が外部にオープンになることを、とても嫌がります。また、先生や上司など、権威のある立場の人には弱い場合もあるようです。
そのためには、普段から子どもの話を否定せずによく聴いてあげて、家で嫌なこと・困ったことを話しやすい雰囲気を作ってあげることが、親にできる一番のいじめ予防だと思います。
そして、なにか気になる様子があったら、早めに信頼できる先生やスクールカウンセラーなどに相談し、学校と連携します。ひとつひとつの注意は「些細なこと」「本人が悪い」と思われがちなので、
・何人に(あるいは特定の誰かに)
・いつ、どんなことを
・どれぐらい継続して 注意・叱責を受けているか
客観的事実をできるだけ具体的に伝えます(証拠や記録があるとベスト)。
学校によっては納得のいく対応をすぐに取ってもらえない場合もあるかと思いますが、「情報を共有する」「事実を伝えておく」ことが、まずは大事だと思います。
できれば、状況が落ち着くまで、親が「この子は守られている」姿勢を実際に見せていくことができれば、効果は高いと思います。文字通り「保護者」の出番です。
たとえば、登下校中のトラブルが気になる場合は、(お子さんが嫌でなければ)可能な範囲で登下校を付き添ったり、注意をしてくる子たちにも挨拶や声かけをして、「見ている・知っている」姿勢を見せます。
ただし、相手のお子さんを問いつめてしまうと、こちらがモラハラになってしまいます(状況によっては、強く毅然とした態度が必要な場合もあるでしょう。強い悪意がさほど感じられない段階であれば、相手の子のプライドを傷つけない方法のほうが、素直にやめてくれる可能性が高いように思います)。
決して責める口調ではなく「◯◯にはこう話せば分かるみたいだよ」というような伝え方や、「A君、おはよう」「Bさん、背が伸びたね〜」など、名前を呼びながら挨拶や雑談を通したり、「そう言えば、今度〇〇大会があるって(うちの子から)聞いたよ?」など、親子間のコミュニケーションが十分取れていることをアピールしながら、いつも子ども達のことを関心を持ってよく見ている・知っている、ということを伝えます。
仕事や下の弟妹の世話などで、なかなかそこまで登下校などに付き添えない場合は、近所の人や交通指導員さん、ママ友さんなどに「最近ちょっと心配しているので、本人を見かけたら声をかけて頂けると助かります」等、協力をお願いしていくといいように思います。皆でその子を見守っている、関心を持っている、という姿勢を分かってもらいます。
また、相手に悪意があってもなくても、一旦子どもが「怖い!」と思ってしまうと、例え相手が注意をやめてくれても、メンタル面の回復に時間がかかることもあります。ケアをしながら、無理せず、少しずつ少しずつ慣らしながらフォローしていけば、徐々に集団の中に戻っていけるのではないかと思います。
実は、他の子に注意をし過ぎてしまう子どもは、その子自身も課題を抱えている場合もあります。
(そういう子に便乗しているだけの子も多いと思いますが、、、)
家が厳しい、親との関わりが少なくて寂しい、受験勉強や習い事づくめで忙しい、自分も家で注意や叱責を沢山受けている……等、プレッシャーや孤独感、不満やストレスなどを溜めてしまっている時に、一見「自由に」「ワガママに」振る舞っているように見える、発達が凸凹した子の行動が気になってしまうことがあるのではないでしょうか。本当は本人もそんな風に子供らしく振る舞いたいのかもしれません。
こういう子どもたちは、空気を読んで周りに合わせて状況判断ができる、とても賢くてしっかりした、いわゆる「いい子」で優秀なお子さんが多いようです(そして普段から、とてもガマンしているのだと思います)。
大人が他人や我が子に厳しい目線を向けて、些細なミスや間違いをおおらかに許せないと、子どもも他の子に厳しい目を向けて、些細なことでも注意するのは正しいこと、と思ってしまいます。
そういった大人自身も、職場やパートナー、自分の親などから、厳しい目線を向けられ続けてきたのかもしれません。(理不尽だと思いますが、自分のところで負の連鎖から降りてしまうのが、最も効果的な”復讐”だと私は思います)
世の中全体がお互いに許し合い、小さなミスや欠点、自分のやり方や常識、考え方や文化や感覚の違い、個性の違い……などを大目にみながら、目線を下げて、補いフォローし合えるようになれば、凸凹さんたちも、ずっと生きやすい世界になるのではないでしょうか。
一母親として、そんな日がなるべく早く来るよう、願っています。