今年度の大学入試共通テストが終わり、大学受験もいよいよ大詰めですね。
とはいえ、昨今の大学受験では「推薦・総合型選抜型」での受験者が多く、うちの子の学校でも、昨年中にすでに半数以上の子が入試を終えているようです(うちの高3長男の進学先はまだ決まってませんが…)。また、入試方式も多様化していて、共通テストを受ける子の割合は受験生の半分以下だそう。
そして、令和5年度共通テストの志願者数は、約51万人(受験者数は約47万人)。
そのうち、合理的配慮を受けての受験を許可された「受験上の配慮決定者数」は、全体で4049人。うち、発達障害を理由とした配慮決定者数は、450人(大学入試センター令和5年度資料より)。
今回のブログ記事は、その、450人/51万人=0.088%(母数が高3人口の109万人だと、0.041%)くらいの、「配慮を受けての共通テスト受験を検討中」の高校生と保護者・先生等の周りの大人の方に向けたものになります。
(ただし、各大学の入試でも合理的配慮を希望する場合、共通テストでの配慮申請が関係してくることも)
※ うちの長男は配慮申請も共通テスト受験も行っていないため、以下は一般公開されている2024年度入試の情報から、私が読み取れたことをまとめたものになります。
最新の正確な情報は、大学入試センター、各大学の公式HPや学校案内等をご参照の上、疑問点は各自で直接ご確認下さい。
■発達障害のある子が大学入試で合理的配慮を受けるには…
まず、大学入試全般での合理的配慮の話をザックリと。
2024.4より、改正障害者差別解消法が施行され、私立大学でも合理的配慮は「法的義務」となります。これが私大受験にどの程度反映されるのか、現時点では私には分かりません。
ですが、近年、国公立・私立問わず、ほとんどの大学の入学案内・募集要項等に「障害等があり、受験上の配慮を希望する方へ」等の項目があり、受験生向けの相談・問い合わせ先が載っています。
また、ほとんどの大学では学生相談室等の設置も進み、受験時だけでなく、入学後にも合理的配慮を受けたい場合や、障害の有無を問わず、誰でも心の悩みや学業・生活上での困りごとの相談等に乗って頂けますからね(特に、心理学部や教育学部などがある大学は、サポートが手厚い印象です)。
なので、各大学が実施する入試での合理的配慮を希望する場合は、高1・高2段階から、気になる大学の入試案内等を確認し、オープンキャンパス参加のついでに相談室などに立ち寄って、まずは早めに配慮の申請に必要な書類と申請時期を確認してみることをオススメします。
…というのも、共通テストでの配慮申請の結果が、各大学の一般入試等でも、配慮の可否や内容の一つの判断基準になる場合もあるようだからです。
もちろん、共通テストでの配慮申請の結果が不要な大学もあります。
例えば、うちの長男がゲットした、ある私立大学の募集要項によれば、大学独自の申請書と医師の自前の診断書のみの提出で、その大学の一般入試での配慮申請が可能でした(配慮を希望する受験生向けに、個別の相談期間も設定されていました)。
また、いくつかの国公立大学の公式HP等を調べてみると、共通テストの配慮申請をしていない受験生は、共通テストの結果の通知書なしで、各大学の入試での配慮申請をできる場合もあるようです。
ただし、共通テストの配慮申請の結果が必要ない場合でも、各大学独自の申請書には「今までの配慮実績」などを記入する欄があり、医師の「診断書」と共に提出することが多いようです。
なので、繰り返しますが、とにかくまずは情報収集し、志望大学での配慮申請に必要なものを確認することが大事です。(うーん……。高1高2段階では、志望大学が明確に決まってない子が大半だと思いますが…。その場合も、医療機関の受診と高校での配慮実績作りは進めておくべし)
そして、発達障害のある子が「共通テスト」で合理的配慮を受けるためには…
受験年度のスケジュールから逆算して、高1高2から、早めに動く必要がある
…のです。では、申請に必要な書類と前提条件を詳しく見ていきましょう。
■共通テストでの配慮申請に必要な3つの書類
「大学入試共通テスト」の配慮申請に必要なのが、発達障害のある子の場合は…
この3つ。全て大学入試センターの指定様式のものが必要です。
(※リンク先は大学入試センター公式HPの「令和5年度 受験上の配慮案内」ページよりダウンロードできる「配慮申請に必要な様式」の各PDF。受験年度の最新のものは各自でご確認下さい)
【2024.7追記】大学入試センター:令和7年度受験上の配慮案内ページ
で、この3つを高3の配慮申請時期(8月〜9月)までに揃えるには、高1高2から準備する必要があります。それぞれの書類について、大事なポイントを解説しますね。
1.受験上の配慮申請書
まず、基本的な個人情報や希望する配慮等を記入する「配慮申請書」のポイントは…
志願者本人が記入・申請するのが基本
当然のことながら、受験生本人が受験上の合理的配慮を希望していることが大前提となります(保護者や担任の先生が「よかれ」と思って勝手に申請しないこと)。
まず受験生本人が「自分は発達障害である」と受け容れた上で、「このような配慮を受けて受験したい」と、文書で具体的に伝える必要があります(障害者本人が主体となって配慮等を求め、相手側と建設的な対話をしていく姿勢を「セルフアドボカシー」と言います)。
指定様式の配慮の内容は、試験時間の延長や拡大文字での問題用紙の配布など、「よくある配慮」についてはチェック式ですが、それ以外の個別にカスタマイズされた配慮を希望する場合は、「その他」欄に具体的に記入します。
つまり、申請までに「自分はこのような配慮があれば、受験できる」と認識していることがまず必要。
(お医者さんの診断書にも配慮例を書く欄がありますが、あくまで本人の申請書の希望配慮事項のみが審査対象となります)
障害受容や自己理解には時間がかかりますし、思春期・青年期の子には「自分だけ特別扱い」などと思う/思われることはデリケートな問題でもあるので、保護者や周りの大人が配慮を受けての受験を勧める場合も、本人の意志を十分確認・尊重しながら、時間をかけて説明していく必要があるでしょう。
2.診断書(発達障害関係)
次に「診断書」。お医者さんが自前で用意したものではなく、大学入試センター指定様式の「発達障害関係」向けの診断書が必要です。
ここには、診断名の他、専門のお医者さんが必要と判断した受験上の配慮の具体例や、3年以内に実施した心理・認知検査の結果等を記入する欄があります。つまり…
医学的な診断名のない、未診断・グレーゾーンの子の配慮申請は難しい
…と思われます。
ですから、現時点で未受診・未診断の受験生や、「小さな頃グレーゾーンと言われたきりだけど、今はもっと困難さが強い気がする」という子の場合、早めに"ちゃんとした”専門の医療機関で受診・相談を。
現状、発達障害の正確な診断ができる専門の医療機関は、スグに初診の予約が取れない場合も多く、予約から半年以上待つことも。
また、本来、発達障害の正確な診断は、知能検査や認知・心理検査の実施等を含めて、十分な時間をかけて行われる(はずの)ものなので、高3になってから初診の予約を入れたのでは、申請時期に間に合わないでしょう。
また、現在既に発達障害等の診断があり、かかりつけの専門医がいる場合も、受診の際に予め申請書類の見本をプリントして持参し、「受験のときに、こういうのを書いてほしいのですが…」って、現物を見せながら早い段階で相談すれば、必要な検査なども申請時期に間に合うように手配してくださると思います。
3.状況報告書(発達障害関係)
そして、高校等で行った配慮について、高校の先生などに具体的に記入してもらうのが「状況報告書」です(校長と記載者の署名が必要)。つまり…
申請時期までに高校等での配慮実績が必要
…ということ。
(ちなみに、高校等に在籍していない子の場合は、塾などの教育機関での配慮の状況や、専門家の意見を保護者が記入しても良いようです。)
そして、この「状況報告書」の裏面には…
「読み」「書き」等における配慮
定期試験等の実施・評価等における配慮
個別の指導計画の作成
個別の教育支援計画の作成
その他の支援・配慮
…について、「している」「していない」のチェック項目があり、「している」に◯をつけると、具体的にその内容を記入する欄があります(指導計画・支援計画は、申請書類に添付して提出)。
ですから、高1高2から、学校の定期テスト等で試験時間を延長してもらったり、別室で受けたり、拡大した問題用紙を用意してもらったり、あるいは独自の配慮を実施してもらった実績を作っておく必要があります。
なので「状況報告書」の場合も、高1高2から早めに見本をプリントして、学校の先生に(できれば管理職の先生や進路担当の先生も一緒に)「受験の時の配慮申請に、こういう書類が必要になるのですが…」と相談しておくべし。
■結果の通知書
これらの数々のハードルをクリアして、なんとか書類を揃えたら、高3の8月または9月に、共通テストの出願に先立って必要書類を提出し、「出願前申請」を行います。
すると、大学入試センターが事前審査を行い、「受験上の配慮事項審査結果通知書」という審査結果が、9月下旬or11月下旬に送られてきて、共通テストでどのような合理的配慮が受けられるか(あるいは、受けられないか)わかります。
そして、共通テスト出願後に、共通テストの「受験票」と、別途「配慮事項決定通知書」が12月中旬に送られてきます(場合によっては、受験票に記載の「問い合わせ大学」との打ち合わせが必要になることも)。
また、志望大学の一般入試などでの合理的配慮も事前に個別相談の上、各大学の所定の「申請書」と「診断書」、共通テストの「配慮事項決定通知書」のコピー等を出願書類と一緒に(または別途)提出する場合も(共通テストで認められた配慮は、大学の一般入試でも認められやすいと思われます)。
■共通テストの配慮申請、スケジュール感まとめ
ここまで読んで、既に気が遠のいてきた受験生さん・保護者さんが大半だと思いますが……。
それでも、共通テストでの配慮申請を行いたい、人一倍やる気とガッツがある子がいるかもしれないので、一応、念のため、私が思う「理想的な」スケジュール感をまとめます。
(正確な日程情報は、大学入試センター公式HPの受験年度の「申請から受験までの主な日程」を各自でご確認下さい)
<高1〜高2>
【志望大学の情報収集と確認・相談】
志望大学の入試案内やHPで前年度の募集要項などで「障害のある受験生」向けの情報を確認
事前相談期間や、オープンキャンパス等で個別相談し、配慮申請に共通テストの配慮申請の結果の通知書等が必要かどうか、確認。
(志望大学が決まってない子も、以下の医療機関の受診と高校等での配慮実績は作っておく)
【医療機関の受診】
未診断の子は、発達障害専門の医療機関の予約→初診→各種検査等→診断を受ける
診断済の子も、申請までに「3年以内の」必要な検査等を受け、受験上の配慮を希望することを相談
【高校等での配慮実績】
高校に合理的配慮を求め、定期テストなどで配慮実績を作る
それを学校側にできるだけ記録等に残してもらう
高校に在学してない子も、塾やフリースクールなどで配慮実績を作るか、専門家の意見を聞く
<高3>
【1学期〜7月中】
大学入試センターから共通テストの受験案内・配慮案内を入手し、指定様式での書類記入を医師や高校の担任等にお願いして、配慮申請に必要な書類を揃える
【8月上旬〜9月上旬/9月上旬〜9月下旬】※申請受付期間は2段階
書類を郵送し「受験上の配慮の出願前申請」を行う
【9月下旬/11月下旬】
「審査結果通知書」の送付されるので、内容を確認しコピーを取る
【9月下旬〜10月上旬】
共通テストの出願
【12月中旬】
「受験上の配慮事項決定通知書」が送付されるので、コピーを取る
「受験票」等の送付(必要に応じて、記載の問い合わせ大学と打ち合わせ)
各大学の一般入試での配慮についても事前相談・配慮申請
【1月中旬】
共通テストの受験
【1月〜3月】
各大学の一般入試の出願と受験
…となります。
これを、ただでさえ、日々の学校生活を送るだけでも大変な凸凹さんが、受験勉強や一般的な大学入試の情報収集や出願手続き等と平行して進めないといけないワケです。
……。
以下は、あくまで私個人の感想ではありますが……。
■共通テストでの発達障害のある子の合理的配慮って、実質無理ゲーじゃない?
……いやあ、そりゃあ、0.088%しか、申請できんわ。
…っていうか、よほど強力なサポートチームがタッグを組んで凸凹受験生のバックについてない限り、16〜18才の子が、受験勉強と同時進行で、こんな煩雑な段取りを数年がかりで計画的にこなして、事務作業を粛々と進めて、高校や大学側に自ら相談し配慮を求められるコミュ力と、心折れない根気強い強靭なメンタルがあったなら…‥その子は、本当に発達障害ですか? って話ですよ。
実際のところ、人にも環境にも恵まれた、選ばれし精鋭しか申請できないんじゃないでしょうか。
障害のある子にも、平等に受験機会を確保するのが本来の目的なのに、本末転倒では?
まあ、対応する側にも限度があるため、誰でもそんなに気軽に配慮申請されても困るでしょうから、「診断書や配慮実績が必要」という線引きがあるのも分かりますが、個別に事情も異なりますし、発達障害の困難さもスペクトラムなんですから、あまりに非現実的と言わざるを得ません(共通テストの配慮可否の基準を、自前の入試でも便乗している一部の大学も、ぜひご再考を!)。
私個人は「もう少し柔軟に対応できないものだろうか」とも思います。
公的な試験ですから、不正のないように、厳密に厳格に実施する必要があると思いますが、もっと受験生の現実、発達障害のある子の実態に寄り添わなくては、本当の機会平等は確保できないでしょう。
だって、診断書が申請に必須だと、「もしかして学習障害かも…」などと受験生が思い悩んでいても、保護者の理解が得られない家庭の場合、高校生が一人で専門医療機関を受診するのは難しいでしょう。診断名がなければ、高校側も定期試験等で配慮しづらくなるでしょうし。
高校側の発達障害対応状況もまちまちなので、配慮実績を作るのが比較的容易な学校もあれば(教育大附属校とか)、「個別の支援計画?なんじゃソレ??」みたいな学校もあって、定期試験等での配慮も一から根気強く学校と交渉する必要があるのでしょうが(診断書等が必要な場合も)、受験勉強だけでも大変なのに、そんなところでエネルギーを消耗してる場合じゃないですし。
学校側が対応できる場合も、思春期・青年期にある生徒本人が、別室での試験や時間延長はクラスメイトの視線を気にして遠慮する子もいるでしょうし…。
逆に、柔軟な教科担任の先生などが「課題の提出は、自筆でもワープロでも、どっちでもいいよ〜」なんて、口頭でクラス全員に言ってくれても、個人の配慮実績にはなりませんし…。
あるいは、例えば「文字が全く読めない訳ではないけど、文章を読むのに少々時間がかかる」なんて、診断まではでないLDグレーゾーンの子も、読字ガイド代わりに定規を当てるなど、自分でちょっとした工夫をしながら定期テストなどを乗り切ってきても、同じことを配慮申請なしに共通テストで行うと、定規の使用は禁止なので「失格」となる可能性も。
(図書館の拡大鏡のように、障害の有無を問わず、必要な人には誰にでも、読字ガイドやイヤーマフなどの公認の補助具を貸し出せばいいのに、と私は思います…)
まあ、これでも以前に比べれば、発達障害のある受験生への合理的配慮は、少しずつ普及・改善してはいると思いますが…。
もちろん、「それでも共通テストで配慮を受けて受験したい!」というガッツのある受験生さんを、私は心から応援しています(あなた方のような希少な人材が、日本の未来を切り開いていくのだと思います)。
でも、当然のことですが、「こんなの無理、メンドクサ!!」と思った、発達障害&グレーゾーン、未診断の受験生さんも…
共通テスト不要の、自分に合った入試方式で受験する
配慮申請せずに、共通テスト・一般入試を受ける
発達障害対応が柔軟な大学の入試で、合理的配慮ありで受験する
高校の系列大学へのエスカレーターに乗る
…などなど、いくらでも大学進学への道はありますから、ご安心下さいね。
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関連執筆コラム:発達障害のある子の大学受験。共通テストの合理的配慮申請に感じる高いハードル 2024/08/24公開(LITALICO発達ナビ)