top of page

【第11回】「発達障害」って結局どういうこと…?


宇宙と発達障害の女の子のイメージイラスト
イラスト提供:marutaro

■ネットにあふれる「発達障害」というワードのイメージ


すでにみなさんも「発達障害」という言葉を聞いたことがあると思います。


(ここまで10回に渡って、「個性」や「環境」や「適応」などについて詳しく掘り下げてきて、ようやく「発達障害」について語る下準備ができたので、久々の「10代のための凸凹学」連載更新です)


今や、発達障害に関する情報は本やネットであふれていますし、TV番組で何度も取り上げられたり、有名人やYouTuberで自分に発達障害があることを公表する人もいて、身近な言葉として、すっかり社会に定着したように思います。


まだまだ数は足りないものの、専門の病院や、公民のサポートや福祉サービスなどを利用する子/方も増えました。ここ数年間で、公立小中学校の支援級・通級のクラス数も大幅に増え、各大学でも受験や授業での合理的配慮、学生相談室の活用実績なども積み上がっています(高校時代は「支援のエアポケット」状態ですが…)。

「大人の発達障害」という言葉も広まり、社会人でも、さまざまな就労支援や、在宅ワークなど多様な働き方の選択肢が増えて、状況は改善しつつあると思っています。


その反面、クラスメイトの言葉のやりとりの中で「発達障害」というワードが悪口として使われたり、SNSや掲示板の書き込み等で、発達障害に関する良くないイメージや差別的な表現を見聞きしたり、ネット検索していると、進学や仕事、家庭環境などで苦労や挫折が多かった発達障害のある大人の方の体験談などが目に入ることもあるでしょう。


そんな中で、「発達障害」というワードにネガティブなイメージを抱いたり、将来を不安に思ったり、

お医者さんの受診やカミングアウトに抵抗感を感じる人もいるのは当然だと思います。


例えば、ネットに書いてある発達障害の特徴がいくつか当てはまって「もし自分がそうだったらどうしよう」と心配になったり、既に診断があっても「自分は発達障害です」って周りの人に堂々と言いづらかったり……。


あるいは「自分は発達障害かもしれない」と真剣に悩んで周りの大人に相談したのに「ただの個性」「障害なんて大げさ」などと軽く流されたり、逆にクラスメイトから「おまえ発達障害だろ〜!」と勝手に決めつけられて傷ついたり…。


今の子ども達は(大人たちも)、情報とのつき合い方が、本当に難しい時代に生きている、と思います。


私はこのブログで、若いみなさんに自分の個性への理解と同時に、現実との折り合いの付けかたを伝えていきたいと思っているので、今現在の「発達障害」という言葉のイメージを、無理やりポジティブに受け止める必要はないと思いますが、同時に、ネットにあふれるネガティブなイメージで過剰に不安になることもないとも思っています。


そもそもネットって、ネガティブな言葉や、極端な例のほうが目に入りやすい仕組みになっています。


手作りHP運営歴10年の私に言わせてもらえば、不安をあおるタイトルの記事や動画、ネガティブな検索ワードなどのほうが、人の心理としてクリックされやすいのです。

そして、アクセス/PV数が多くなると、余計に検索結果やSNSタグで上位表示され、類似のネガティブ情報も自動的に次々とおすすめ表示されてしまう…と、ネガティブの悪循環に陥りやすい構造なのだと思います(過剰に不安をあおる情報は、割り引いて観る習慣を!)。


こういった仕組みの中では「発達障害があるけど、フツーに暮らしている」「生きやすくもないけど、生きづらいってほどでもない」「ほどほどに自分に満足している」なんて人の、「昨日と同じ」「特に何もなかった」「普通」なんて、手抜きの夏休みの日記みたいな話は、たとえ実際には多かったとしても、ネットやメディアの情報として、ほとんど人目に触れません(うちのパパは、そういう感じですよ〜)。


何かあった時や極端な人の例しかニュースにならないし、ほどほどにうまくやれてる人は、特性があっても「発達障害」としては、はっきり診断されない場合も多いからです(後述)。


ポジティブな情報も、こちらから積極的に探しに行かないとなかなか目に入りづらい上に、見つかっても"例外的に"能力が突出した偉人の武勇伝や、企業経営者等の成功体験談などだったりもします。


そういう人の話が励みや希望になる人もいると思いますが"フツーの"発達障害の人には、簡単にマネできそうになくて、実践例としては大して参考にならない場合も多く、突出した能力がなければ受け入れてもらえないように感じる人もいるでしょう。


(私自身は、発達障害傾向のある偉人や成功者の話は、成功体験や武勇伝より、失敗体験や乗り越え方、凹部分との付き合い方や工夫、周りの人の関わり方、時代や環境の活かし方などのヒントとして、身近に活かせることが多々あると思っていますが、脱線するので今はここまで)


ここでは、ポジティブ過ぎでも、ネガティブ過ぎでもなく、バランスよく「発達障害」というものを正面から捉え、本質的な理解に迫っていきたいと思います。


■じゃあ、「発達障害」って結局どういうこと…?


発達障害(神経発達症)を、ズバリ一言で言うなら個性と環境の間に"努力では乗り越えられない壁"がある子 」…だと、私は理解しています。


様々なサイトで「発達障害のある人の特徴」などのチェックリスト等が掲載されていますが、私は個別のそういった特徴(特性)よりも、【第4回】でお話しした「自分の中の凸凹差」に注目したほうが、発達障害のある人の困難さを理解しやすいと思っています。


まず、その人が発達障害である【第1条件】は…


・生まれつきの個性の、凸と凹の差が大きいこと


…でしょう。

「得意なこと/苦手なこと」「できること/できないこと」「人より成長が早い部分/遅い部分」などの差が大きければ大きいほど、自分が思い通りに動かなくて、うまくいかないことが増えるし、周りの人にも理解してもらえないし、人との違いに思い悩んだり、人と比べて落ち込んだりしてしまうのです。


この発達の凸凹差は、専門の医療機関等で発達検査や知能検査などを行うと、数字としてハッキリわかります。例えば…


<ASDの診断とADHD、LD傾向があるうちの長男の検査結果>


彼が小1の時に受けた知能検査のWISC-Ⅳでは、凸部分と凹部分のIQ差が40近くありました(臨床心理士さん曰く「通常は15程度の差までに収まる」のだそう。※1)。

一般的に「IQが20以上開いた人同士だと話が合わなくなる」などと聞きますから、自分の中でのIQ差が40もあったら、自分自身が思い通りにならないのも想像できるでしょう。


更に身体的な機能も、彼が実年齢10歳の時のLD分野に関する視機能検査では、人より成長が早い部分は検査の上限値を突破し測定不能で推定20歳程度でも、人より成長が遅い部分は5-6歳程度でした。

もしも、人型巨大ロボットを大人と年長組の園児が協力して操縦するとなれば、どちらかがかなり無理をしなくてはならず、なかなかうまく動かないのは当然ではないでしょうか。


凸凹差が大きければ大きいほど、どんなに部分的に高いチート能力があっても、実力を十分に発揮できなくて失敗体験が多かったり、自己肯定感が高めにくかったり、自尊感情が傷つきやすくなってしまいます。

特に、協調性などを重視される環境の中では、高い能力よりも、みんなについていけない低いほうの能力のほうが目立ってしまい、周りからの評価も低くなりがちです。


これが、いわゆる「個性的な子」の根っこにある苦しみや、周りとの違和感の根本的な原因だと、私は理解しています。


でも、単に「凸凹差が大きい」「個性強め」だけでは、「障害」とまでは言えないでしょう。


【第5回】でお伝えした通り、壁(=障害)はその人と環境との「間」にあるのであって、その人の中にだけ存在するのではないからです。


つまり、発達障害である【第2条件】は…


・個性の違いが主な原因で、今の環境に適応できていないこと


…だと思います。

近年、専門のお医者さんでも、生まれつきの発達特性があることだけでなく、日常・社会生活に著しく不適応の状態にあるか…などを総合的にみて診断する傾向にあるようです


もし、生まれつきの凸凹差が大きくても、多少個性が弾け飛んでいても、その人が今の環境で受け入れられ、自分も周りの人たちも、毎日ほどほどに支障なく過ごせていたら、なんの問題もありません。


「ただの変わり者」「フツーの宇宙人」「ご近所有名人」…など、"個性的な人”の範囲で済んでしまいます。


でも、今の環境で自分の個性が受け入れられておらず、そのために周りから理解されない、息苦しい、つらい、孤独…などの「生きづらさ」を本人が感じたり、日常・学校生活、就労などで、極端に失敗や叱責体験が多かったり、学校や仕事を続けられないなど、実際に大きな支障があるのなら……。


それは【第6回】で詳しく解説した通り、「不適応」の状態にあるので、その人の個性と環境との間に「障害物 = 努力では乗り越えられない壁」がある、と考えます。


これらをまとめると…


発達障害 =「凸凹差の大きな、生まれつきの個性」+「環境との間に適応できない障害物があること」


…だと、私は理解しています。


今のネガティブなイメージの情報に囲まれた環境の中で、「障害」というレッテルが自分に貼られることを不安に感じる人もいるでしょうが、あくまで「障害物」は、自分と環境との間にあるのです


そして、その障害物となっている壁を少しずつ減らしていくには、まず、自分のことを理解し、学校や会社等の環境側との相談や話し合い、支援やサポート、合理的配慮、医療的アプローチ、行政のサービスや補助、各種トレーニングや自分でできる工夫、あるいは環境を変える…などの方法が沢山あります。


そんな時に、「発達障害」と言う言葉や診断名は、相手に納得してもらうための根拠や、必要な手助けや有益な情報にたどり着く鍵 = キーワードともなってくれると思いますよ。


■目指せ!フツーの宇宙人


今、発達障害の診断がある人も、「もしかして、そうかも」と悩んでいる人も、はっきりした診断はないけれど環境との間に"障害物”を感じている人も……。


せっかくのあなたの素敵な個性を、無理やり"治す”"克服する”必要もありませんが(そもそも、どんな人の個性も"治す"性質のものではありません)、環境との間の障害物を減らして、自分と上手に付き合って…


「フツーの人」になろうとしなくていいから、「フツーの宇宙人」を目指しましょう!😉


生まれつきの個性の凸凹差が大きなこと、少々人と違うこと、個性的であること…などは、それ自体、なんの罪もありませんし、誰も悪くありません。


凸も凹もあなたの一部であり、フツーの部分も含め、全部ひっくるめて、「あなた」という世界に一人だけの、素晴らしい人なのです。


ですから、どうか、凸も凹も、フツーの部分も、大事に大切にして下さいね。


 

※1

知能検査WISCでの、同じ人の上位指標と下位指標の数値の差は、通常はIQ差15程度以内の範囲に収まるようです。この差が大きいことを「ディスクレパンシー」と言い、統計的に意味がある差になります。発達障害のある人に多く見られる傾向ではありますが、ディスクレパンシーが見られる = 発達障害とは限りません。(参考サイト:心理学用語の学習 , ミライクス …他)

bottom of page