■「発達障害 映画」の検索ワードでは出てこないけど…
「発達障害 映画」や「自閉症 映画」などで検索すると、「レインマン」などを始め、各種情報サイト等でいろいろ出てくるとは思うのですが…。
ここで私が紹介するのは、発達障害そのものをメインテーマに扱った作品ではなく、作中の主人公も設定上、発達障害があると直接描写されているわけではありません(一部さり気なく、そうと分かる表現がある作品もあります)ので、上記の検索ワード等では、あんまり出てこないかもです。
でも、個性的な子(?)の生きづらさや、キラキラした世界観などに共感できたり、不器用ながらも一所懸命な生き方に励まされたり、鑑賞することで自己理解やSSTに役立ったり、さり気なくマイノリティの窮屈さや困り感、個性の違いや多様性を認め合う気づきがあったり、親や周りの人達の関わり方の参考になったりする、学びにあふれた作品は沢山あるんですね。
娯楽・エンタメ性を兼ね備えた親子で一緒に楽しんで観られる作品〜中高生くらい向けにオススメできる作品を中心にセレクトしたので、グレーゾーン・未診断・告知前のお子さんと一緒に観たり、不登校中のお子さんのおうち時間や、クラスや各種団体の鑑賞会などでみんなで観ても大丈夫です(一応、★レーティング情報もつけて、リストは私が推奨する大まかな年齢順に掲載しています)。
※タイトルリンクは公式サイト。各紹介文末に Amazon Prime Videoの視聴リンク(見放題/レンタル視聴)をつけていますが、各動画配信サービス等の最新情報は各自でご確認下さい。
■発達障害・グレーゾーンの子と親、中高生にオススメの映画7選
<目次>
「ズートピア」2016年(アニメ:1時間48分)★全年齢
子どもから大人まで楽しめる、エンタメ性溢れるディズニー映画。
動物達の楽園ズートピアを舞台に、ウサギ初の警察官となったジュディが、詐欺師のキツネ・ニックと共に行方不明事件の捜査を開始!…というファンタジー・アドベンチャー活劇。
私は近年の一部の欧米メディア作品にみられる多様性ゴリ押しの風潮は、かえって誤解や偏見を招くように思うので歓迎してませんが、この作品は本当に小さな子にも分かりやすく、自然に多様性やお互いの違いを認め合うことの大切さが理解できるように、細部まで作り込まれていて素晴らしいです。
夢を追って努力を重ね、ついに憧れの警察官となったウサギのジュディは、様々な現実の壁に直面します。相棒のニックも、キツネというだけで偏見の目を向けられ、一見共存しているように見える草食動物と肉食動物も、お互いを根深いフィルターを通して見ています。そして、ジュディ自身もキツネに対する先入観から……。
…と、誰にでも偏見や決めつけの感情があること、弱者と強者、マイノリティとマジョリティなどの立場は何かのきっかけで逆転することなど、次々と”真犯人”が変化して惹き込まれる巧みなストーリー展開や、イメージとギャップのある魅力的なキャラクター達の描写で、さり気なく気づかされます。
本作は多文化・多国籍社会への暗喩が制作背景にあると思いますが、人種や国籍だけでなく、見た目や性別、生まれつきのことなどで、「〇〇だから無理」と自分の夢を諦めたり、他人の可能性を決めつけたりすることなく、"違い”を個性として認め合えたら共存していけるし、誰だって何にでもなれるんだよ、というメッセージを送っています。
1周目はエンタメとして楽しんで、2周目は深いメッセージを読み取って、3周目は大きな動物と小さな動物が共存する工夫や都市設計に注目して…と、何度観ても面白いと思います。
→Prime Videoで観る:吹替版
「インサイド・ヘッド」2015年(アニメ:1時間34分)★全年齢
現在(2024.9)、続編の「インサイド・ヘッド2」が絶賛劇場公開中ですが、私は未視聴なのでこちらを紹介しますね(長女は夏休み中、友達同士で2を映画館で観に行ってきました!10月中くらいまでは上映してると思います)。
主人公は、11歳の活発な女の子・ライリー(この年頃は「プレ思春期」と呼ばれ、感情が複雑になっていく時期なので、設定が絶妙だと思います!)と、頭の中で彼女のために日々奮闘する5つの感情「ヨロコビ」「ムカムカ」「イカリ」「ビビリ」「カナシミ」達。ある日、住み慣れたミネソタを離れて、都会のサンフランシスコに引っ越すことになり、ライリーの心や家族関係も不安定に…。
そんな中、ライリーがプチ家出をし、頭の中の感情達も大混乱。いつでもポジティブなヨロコビと、なんでもネガティブに捉えるカナシミが、彼女を再び笑顔にするために記憶の世界を冒険します。
この映画は、観るだけで本当にいいSST(ソーシャルスキルトレーニング)になります。まず、「感情をラベリングして、客観視する」というのが、セルフコントロールやアンガーマネジメントでも、とても大事なので…。それを分かりやすいキャラクターで視覚化してくれているので、お子さんが自分の感情には名前と形があると理解するだけでも違うと思います。
そして、ストーリーを通して、ネガティブな気持ちも含めて、どんな感情も必要だということが分かるのが秀逸過ぎます。
このお話は、複雑な感情を獲得したライリーが思春期に向かうところまでで、続編では、高校入学したその後のライリーと大人の感情達が出てくるので、こちらもすごく期待してます。
→Prime Videoで観る:吹替版
「かがみの孤城」2022年(アニメ:1時間56分)★全年齢
辻村深月の同題ベストセラー小説を劇場アニメ化。
引っ込み思案の中1の女の子・こころは中学でいじめに遭い、自宅に閉じこもる生活を送っていたある日、部屋の鏡が光って吸い込まれると、突然不思議な城に。そして、そこには、こころと同じく様々な事情で不登校となった生きづらさを抱える見ず知らずの中学生達と「オオカミさま」と呼ばれる仮面の少女がいて、城の中で鍵を探して見つけられたら「どんな願いも一つだけ叶う」と告げる…。
…という、ファンタジックなミステリー要素のあるストーリーなのですが、とにかく、なかなか言葉にするのが難しい、中学生特有の空気感や心理描写が巧みに描かれ感服します。特に、思春期の複雑な女子の人間関係を言語化・視覚化してくれ、そういった空気感に馴染めない子に響くと思います。
7人の中学生達は、それぞれに個性も不登校となった事情も異なり、不登校への親の理解度、家庭環境や家族関係も違いますが、ある出来事をきっかけに、唯一の共通点があることが分かります…。
学校に居場所がなくて孤独だった子ども達同士、だんだんと友達になって支え合い、自分なりに前に進もうとする姿に、思わず手を握りしめてしまいました。親、先生、支援者…大人達の不登校児への関わり方も、寄り添えた例、寄り添えない例、どちらも参考になると思います。
「おおかみこどもの雨と雪」2012年(アニメ:1時間57分) ★13+
「サマーウォーズ」「竜とそばかすの姫」などの細田守監督作の中でも、長女&私が特に好きな作品。
人に変身できるおおかみ男と恋に落ち、二人のおおかみこどもの雨と雪を出産した花が、突然の夫の死後、自然豊かな田舎暮らしで子育てに奮闘する姿や、活発な姉・雪と繊細な弟・雨のきょうだいが、人の社会での適応に苦しみながらも自分なりの生き方を見つけて自立していく姿を描いています。
前半の、シングルマザーとなった花がたった1人で、幼少期の言うこと聞かない活発な子どもたちを、手狭なアパートで周囲に気を遣いながら暮らす様子は、まさに"ADHD子育てあるある"。我が子の育て方が分からず花が独学で必死に勉強しまくる姿に、私も身に覚えがありすぎて感情移入してしまいました(子ども達残して、あっさり死んでしまったパパには、少々言いたいことはありますが…)。
そして後半の、思春期を迎えた雨と雪が、それぞれ不器用ながらも自分の生き方を探して成長していく姿は、集団教育に向かない子や、不登校など、学校に適応しづらい子も共感できると思います。
少しだけ【ネタバレ】になってしまいますが…
周りとぶつかりながらも学校に通い、人として共に生きる道を選んだ雪と、不登校・ホームスクーリング状態から、文字通り一匹狼として自分独自の世界に入っていく雨の対比が、社会に適応しにくい子の生き方の選択肢の例を提示している気がします(一生懸命手のかかる子を育てた親の、子ども達が巣立つときの”予習”にもなります。男の子って親離れする時は、あんなモンなのでしょうね……)。
「心が叫びたがってるんだ。」2015年(アニメ:1時間59分)★7+
埼玉県秩父市を舞台にしたオリジナル青春アニメ映画。
おしゃべり過ぎる夢見がちな女の子・順は、口が災いして両親が離婚してしまい、"玉子の妖精"によって、「おしゃべりで人を傷つけないように」と言葉を封印された。やがて高校生となっても順は人と話そうとすると腹痛を起こすため、メモや携帯の文字でしか他者と意思疎通できない。そんな彼女が、クラスで企画する「地域ふれあい交流会」の実行委員となり、歌なら順の腹痛が起きないため、ミュージカル劇で主演することに……というストーリー。
冒頭部分の順のトラウマ体験が強烈でしたが、そこで「言葉は人を傷つける」と学んでしまった順の心情や、元々はおしゃべりの彼女本来の個性を閉じ込めてしまった苦しさを思うと胸が痛みます。
他の実行委員メンバーも、他人に本音を言えない拓実、一歩踏み出せない優等生の菜月、言葉がキツくて野球部の後輩達に敬遠されている田崎…と、それぞれに人との関わり方に悩んでいます。
私は小学生までかんもくっ子だったので、頭の中では伝えたいことが沢山あるのに言えず、順が絞り出すように声を発する姿に目頭が熱くなりましたが、おしゃべり過ぎて人とうまくいかない子も、人と話すのが苦手な子も、本音を隠して周りとうまくやれてる子も、共感できると思います。
正直、順の両親にはかなり酷い印象を受けましたが、親の余裕がない時などに、つい、ため息混じりに発した無神経な言葉が子どもの心にずっと残り続ける可能性も…と思うと、割れやすい卵を扱うように、大人は何気ない言葉にも気をつける必要があるのかもしれません。
後半、順がストーリーを考え、拓実が名曲に歌詞をつけた劇中劇のミュージカル(※本作はミュージカル映画ではないです)と重ねて、順の「玉子の呪い」が解かれるシーンがありますが、その時の順と拓実のやりとりも秀逸。言葉は人を傷つけることもあるけど、それだけではないんですね。それを象徴的に表現した、ミュージカル劇ラストでのアンサーの出し方も素晴らしいです。
「さかなのこ」2022年(実写:2時間19分)★全年齢
個性的過ぎるお魚博士・さかなクンの自伝が原作の、ハートウォーミングなコメディ映画。
魚と絵が大好きな変わった子・ミー坊が、大好きなことを仕事にして自立するまでを描いています。
初見では、「ギョギョギョ」でお馴染みのさかなクン役を、「じぇじぇじぇ」でお馴染みのキュートな女優・のんさんが演じるという、斜め上の配役に度肝を抜かれましたが……不思議とハマってます。
作中、さかなクンご本人が出演しますが、はっきり言って不審者役です…😅
でも、個性的過ぎる子が成長し、不審者として遠ざけられるのか、変人だけど面白い人として社会に受け入れられるのか、その運命の分岐点は?…という視点で観ていくと、やはり理解者の存在や環境の寛容さの違いだと感じました。
特に、お母さんの理解が半端なくて、「もっと勉強も…」という学校の先生に「この子はそれでいいんです」と言い、高校卒業したミー坊を「広い海に出てごらんなさい」と送り出すなど、本当に肝が座っていると思います。先生も周りの子も「それがミー坊」として受け入れ、すごいところはスゴイと認めている優しい世界です(ミー坊がお魚に夢中すぎて、悪意に気づかないのも幸いしたかも)。
コメディなので、地元の不良達との関わりもコテコテの展開ですが、お魚一筋のミー坊に振り回されながら影響を受けて、彼らの人生も変わっていくのも見どころで、なんだか微笑ましいです。
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」2011年(実写:2時間9分)★全年齢
9.11同時多発テロが舞台背景のヒューマンドラマ(原作は背景が違うようです)。私が観たのは随分前ですが、今でも心に強く残っている映画です(同監督の「リトル・ダンサー」も好きです)。
主人公は聡明で感受性が強い少年・オスカー(作中、「ASD疑い」と書かれたメモが映り込んだり、「検査を受けた」というセリフなどがあります)。彼が最大の理解者だったトム・ハンクス演じる父親を理不尽に突然失い、父の遺したメッセージを求めて、ニューヨーク中の「ブラックさん」を訪ねながら、深い悲しみや後悔、喪失体験を乗り越えていくストーリー。
我が子から癇癪や暴言をぶつけられるお母さんの描写がリアルで、すごく心が痛みました。でも、この子はそうやって喚き散らしながらも、必死で父親の死という現実を受け止めよう、残された母と一緒に生きようと、苦しみもがいている姿のようにも私には見えました。
そして、オスカー少年が様々な人と出会い関わる姿に、こういう子も決して共感力がないのではなくて、相手を思いやり、不器用ながら愛情を伝えることができるのだと分かります。
ちょっとだけ【ネタバレ】ですが……
自分自身もつらい中で、父親のように大らかに息子に関われない母親も、少年の希望をつなぐことに陰ながら尽力し、物語の最後に、周りの人達がみんな少年に温かく接してくれた理由が分かると、親の関わり方として「こういう愛情表現もあるのだ」と感動しました。
→Prime Videoで観る:字幕版
■映画を観るだけで、子どもの情緒を育て、大人も心の洗濯を…
動画配信サービスの普及で、今は誰もが気軽に自宅で映画を鑑賞できる、便利な時代になりましたね(返却に行かなくてもいいし!)。
ここに紹介した作品に限らず、親子や友達同士、あるいはひとりで、様々な映画を観ながら一緒に泣いたり笑ったりするだけで、子どもの情緒を育て、自分と違う個性や考え方、異なる立場の人の気持ちや事情を理解し、視野を広げる練習にもなるでしょう。
特に、自分の言いたいことを代弁してくれる映画は、コーピングやストレスケアにもなりますから、自分の個性に悩む子も、そうでない子も、周りの(ちょっとお疲れ気味の)大人達も、そうやって時々心の洗濯をするといいのではないでしょうか。