■子どもをほめて育てるのは大事…でも、一切叱らなくていいワケじゃない
よく言われるように、子どもをほめて(認めて)自己肯定感を育てることは、子どもの健全な成長にとって、とても大事です。
少なくとも最低限、自己肯定感の反対語である「自己否定感」を膨らませないよう、理不尽に日常的に過剰に叱られる体験などはできるだけ減らすことが、まずは必要でしょう(親の心身の健康にとっても)。
でも、だからといって、「一切叱らなくていい」ってワケではないと私は思っています。
親や先生は、その子のためを思うほど、時には心を鬼にして立ちふさがって、「ダメなものはダメ!」と教えていく必要があると私は思います。それが人間社会で生きていくための教育なんですから。
中には、「言われないと分かんない、気づけない」ってタイプの子もいますしね(うちにも!)。
私が作成し、ネットで拡散した初代「声かけ変換表」の画像のみをちらっとだけご覧になった方などの中には、「叱らない子育て」や「全肯定育児」と混同されているのでは? …と気になった反応も一部でありましたが、それは誤解(というか早合点)です。
うち、全然ダメ出ししてますよ!
そもそも「絶対怒らない育児なんてムリ」と、私はとっとと諦めてます。子どもも親も間違う生き物だし、人間には感情があるのですから("怒る"と"叱る"の違いは、脱線するので著書参照)。
ただし、同じダメ出しするにしても、子どもに伝わりやすく、親にとっても効率のいい伝え方のコツってあるよね、というのが、私の「声かけ変換」のアイデアの原点でもあります。
でもね。
子どもを叱るとき、言葉の選び方よりも、もっともっと大事なのは「順序」だと私は思っています。
ぶっちゃけ、この「順序」がきっちりできていれば、声かけ変換表のBeforeの声かけ例だろうと、多少言葉のチョイスが雑だろうと、少しくらい厳しい言い方をしようと、ちゃんと子どもの心に届きます(経験者談。でも、「声かけ変換」自体は、子育て効率UPと、親の自然なペアレントトレーニングになっているので、続けているとだんだんラクになりますから、自信を持ってオススメします!)。
■子どもの叱り方は、順序が9割!
では、この「順序」とは何なのかをお伝えしたいと思います。
実はこの「順序」は、著書「楽々かあさんの伝わる!声かけ変換」(2020/あさ出版)の、章の構成にも深く関係しています。子どものおおまかな発達段階に添いつつ、子どもが親のダメ出しを次第に受け入れやすくなる(そして、だんだん手を離す)順序になっています(←この本、細部までこだわり、めっちゃ熟考して練り込まれてるんですよ、実は!)
この本の章の構成とは…
0章 心の片づけをする声かけ
1章 愛着と信頼関係を築く声かけ
2章 自信をつける声かけ
3章 子どもに伝わる声かけ
4章 ブレーキをかける声かけ ……(以下略)
…となっています。この順序がとっても大事で、親の本気のダメ出しが子どもの心に届くかは、9割これで決まるといっても過言ではないと思っています。物事には順番、段階ってありますからね。
では、それぞれ(本がお手元にない方のためにも)端的に解説していきますね。
【順序1】親の心の片づけをする
まずは、お子さんのことの前に、親自身の心の整理をして、少し肩の力を抜きます。
それから、我が子にできないことがあれば、親心として、いろいろ気になるとは思いますが…
今のその子にとって、過剰な要求をしていないか
一度に多くを求めすぎていないか
本当にそれは、できないと自立に支障があるほど大事なことか
親自身の宿題を、子どもにやらせようとしていないか
…などを総チェックして、「適切だと思われる要求」のみ、親子でゆっくりがんばればいいんです。
んまあ、大縄跳びが上手にできなくたって、ちゃんと大人になれますから(ココに生きた証拠が!)。
【順序2】親子の愛着と信頼関係をしっかり築く
子育て全般でも、子どもを叱る上でも、最も大事な課程がココ。
「何を言われるかより、誰に言われるかだ」などと聞かれるように、親子の愛着・信頼関係さえできてれば大抵のことはなんとかなるし、つい子どもを叱りすぎても、ちょっとくらい言葉の選び方を間違えても、親子関係は壊れません。
つまりは、「子どもに愛情を(伝わるように)伝える」ということですが、そのために…
愛情を言葉と行動でハッキリ、分かりやすく伝える
子どもの話を否定せずに聴き、共感的に接する(感情と感覚は否定しない)
主語を自分にして、気持ちを伝える(Iメッセージ)
間違ったら謝る
…などなどが、大事なポイントかなと思います。そして、親の愛情が伝わり親子の信頼関係があるからこそ、ココぞというときの、親の本気の「ダメ!」だって、子どもの心に届くハズです。
【順序3】子どもの自己肯定感を育てる
そうは言っても、子どもが自信をすっかり失くしているときなどに、追い打ちでダメ出しされたら、素直に受け取る気にはなれないし、場合によっては深く傷ついてしまうことも。
特に、学校などで失敗・叱責体験が多くなりがちな子や、繊細で感受性が豊かな子などは、日頃から意識してほめて認めて、自己肯定感をモリモリに盛っておくと、心の土台が丈夫になります。
それには、親が子どもを肯定的に見て、いい情報に気づく目線を養うのが大事なので…
親のほめラインを下げる
日頃から子どもをよく観察し、いい情報を言葉でフィードバック
できないことよりも、できてるほうを見るように意識する
比較はその子自身と(他人と比べない)
…など。まあ、親ができるだけ我が子のポジティブな情報に目を向けるように意識すれば、自己肯定感は自然と高まっていくでしょう。自己肯定感が高まればやる気UPにもつながり、ダメ出し・失敗したときの回復力(レジリエンス)もつけられると思います。
【順序4】子どものできた!を増やす
子どもが親から愛され自己肯定感が高くても、現実の自分ができないことに直面し、あまりに失敗・挫折が多ければ、他人の言葉を受け入れられなかったり、がんばる意欲を失ってしまうことも。
特に、思春期前後の子は、どんなに親がほめたって、理想の自分と現実の自分のギャップに苦しんだり、自分自身で周りの子と比較して落ち込んだりもしますからね。つまり、実力も大事。
がんばってもどうしてもできないことは「しょーがない」「ま、いっか」としつつも、ある程度でもいいから、実際にできることを少しずつ増やして、達成感や成功体験を積み重ねておくと、ダメ出しにも強くなります。
子どもの「できた!」を増やすコツは…
「やっていいこと」を伝える
指示は1つずつ、スモールステップで小分けに
具体的に、合理的に、視覚的に
興味関心に合わせる
…など。要は、その子の個性に合わせて、伝わるように伝えていくと、その子なりの「できた!」を増やせると思います。
(せっかくの成功体験をすぐに忘れちゃう子は、写真などで証拠も残しておくといいでしょう)
そして…
【順序5】子どもの行き過ぎた行動にブレーキをかける
はい、ココまでの課程を積み上げて、ようやく「叱る」「ダメ出しする」の出番です。
親自身の気持ちの整理をし、親子の愛着・信頼関係を築き、子どもに自信がついて、実際にできることも増えたなら、たとえ、時には「ダメなものはダメ!」って言ったとしても、素直に受け取れたり、スグには納得できないことも、丁寧に理由を話せばある程度わかってくれます。
私は、子どもにダメ出しするときは、「叱る」でも「怒る」でもなく、「ブレーキをかける」イメージで接しています(まあ、「叱る」も「怒る」もフツーにしてますが…)。
子どもにブレーキをかけるコツは…
表情と声のトーンを使い分けて、普段とのギャップで止める
段階的にブレーキをかける
許容範囲の線引きをする
納得できる理由を説明する
ガマンできたことに、ポイントやごほうびを与える
…などなど。そして、いずれは自分で安全運転できるように、じっくりブレーキ回路を育てながら、だんだんと手を離していくと、親のいないところでも子どもが自分で判断できるようになっていきます。
とはいえ、実際の子育ての場面では、順序とか、課程とか、言葉選びとか、そんなに悠長なこと言ってられなくて、今スグ「待ったなし」の状況だったりもするのは、よ〜く存じ上げておりますよ(我が身に染みて)。
相手は生身の子どもですからね。机上の理想論ばかり言ってられません。
実際には、親の頭の中がぐちゃぐちゃだろうと、親子関係がわやくちゃだろうと、今スグ体を張ってでも、止めないといけない状況だってあると思います。
たとえどんな状況でも、人として、親として、その子の人生を思えばこそ、どんなに嫌がられようと、泣かれようと、壁に穴が開こうと窓ガラスが割れようと、「ダメなものはダメ」「それだけは、やったらアカン」って言わないといけないことって、ありますから。
(私は、こういうときは、"妖怪ヌリカベ"をイメージして、壁のように正面から立ち塞がります)
でも、日頃の親子関係が安定していれば、親が本気で真剣に「ダメ!」って言うときは、「ああ、これは、本当にやったらダメなことなんだ」って、気づいてくれると思います(少々鈍いタイプでも)。
だから、親のダメ出しが「あんまり伝わらないな」「言ってもわかってくれないな」と思ったら、その前の順序に戻って基本を見直してみて、根気よく再チャレンジすればいいんです。
そして、もしも万が一、子どもを叱ったことで親子関係にヒビが入っても、いつからでも、お互いに何歳だろうと、何度でもやり直せること、念のため、心の片隅で覚えておいていただけると嬉しいです。
関連著書:「発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換」 大場美鈴・著(2020.6 あさ出版) →Amazonで見る