楽々式用語解説
発達障害とその周辺領域、関連用語について、なるべく分かりやすい言葉と端的な表現で解説しています。
自己理解や他者理解、周りの人に理解・サポートをお願いする時の伝え方のご参考になれば幸いです。
※楽々式用語解説は、社会的・教育的な観点も踏まえての独自解説です。医学的に正確な診断基準等は専門家の情報をご参照ください。
※発達障害等かどうかを自己診断するためのものではありません。医学的な診断が必要なお子さんや成人の方は、発達小児科・児童精神科、発達障害専門医のいる精神科・心療内科などにご相談ください。
発達障害(神経発達症)
●個性と環境の間に「努力では乗り越えられない壁」がある子 ・得意なことと苦手なことの差(発達の凸凹差)が大きく、かつ、その子の個性と環境との間に努力では乗り越えられない 壁(障害)があり、学校等への適応に支障がある状態の子。 ・その子の個性と環境との関係性によって、困りごとや負担感が生じる。発達の凸凹差が大きくても、支障なく環境に適応できていれば障害とはならない。 ・脳の多様性(ニューロダイバーシティ)を確保するため に、脳の偏りがある人が一定の割合で存在するという考え方も。 ■よくある誤解:「できないのは、努力が足りないから」...? ・本人の努力では乗り越えられないのが「障害」であり、意欲や気持ちの問題ではない。 ・ ただし、合理的配慮や接し方の工夫、環境調整、その子に合った方法での学習、できる範囲での自助努力・発達支援(療育)、自然な成長などで、できるようになることも多々ある。 ■よくある誤解:「発達障害は親の育て方のせい」...? ・発達の凸凹差が大きいのは生まれつきの個性によるもの。家庭環境や親の養育態度に関わらず、一定の割合で生じる。 ・ ただし、周囲の無理解や失敗・叱責体験の積み重ね等による2次障害や、発達障害によく似た特徴のある行動・情緒障害の中には、家庭や学校での不適切な関わりや心的外傷等による、後天的な要因が影響している場合も。 ・また、いわゆる「普通の子」でも、生活習慣の乱れや経験の不足等によって、発達障害と同様の困難さが感じられる場合も。
ASD(自閉スペクトラム症)
●物事の捉え方が違う子 ・集団行動が苦手で、日本社会では特に「空気が読めない」「協調性がない」などと思われがちだが、意志・こだわりが強く、独自のユニークな視点や率直な意見を持ち、周りに流されない強みがある。 ・言葉の発達に過不足があり、人と話すのが苦手な子や一方的によく喋る子など、コミュニケーションや社会面で困難さが感じられることが多い。 ・感覚過敏や不器用さがあることも多い。 【得意なことの例】 ・一つのことにコツコツと粘り強く取り組むこと ・論理的に考え、物事にパターンや法則性を見出すこと ・視覚情報の理解や記憶(聴覚情報に強い場合も) 【苦手なことの例】 ・物事を柔軟に臨機応変に受け止めること ・急な予定変更、初めてのこと、いつもと違う状況への対応 ・あいまいな表現や、暗黙の了解の意図を察すること ■人と違うところ:「周りを見て、自然と学ぶ」…? ・ASDのある子は模倣が苦手なことが多く、空気を読んで周りに合わせることが難しい。特に社会面では、通常は集団の中で自然と学んでいくことが、なかなか身につかない。 【接し方のコツ】空気を読ませず、言葉で伝える ■スペクトラムという考え方 ・スペクトラムとは「連続体」という意味。昨今の自閉症関連の診断では、アスペルガー症候群・高機能自閉症・知的障害を伴う自閉症(カナー型)などを明確に線引きせずに、健常児・グレーゾーンから続く「スペクトラム」として捉えている。
ADHD(注意欠如多動症)
●優先順位が違う子 ・教室では「落ち着きがない」「忘れ物が多い」「短気」などと注意や叱責を受けがちだが、好奇心が強くエネルギッシュで行動力があるなど、リーダー的な素質もある。 ・興味関心によって集中力にムラがあり、注意力や衝動性のコントロールに困難さがある。不注意性のみが高い子も。 ・ワーキングメモリや短期記憶が弱く、先の見通しや情報選別が不得手。刺激の過不足で行動が影響されやすい。 【得意なことの例】 ・合理的に即断し、効率や利得を優先すること ・リスクを恐れずに、すぐに行動に移すこと ・柔軟な発想をし、アイデアを思いつくこと ・興味のあることに集中し、夢中になれること 【苦手なことの例】 ・机の中のものや頭の中の情報を整理すること ・先を見通して、計画的に行動すること ・一度に複数の指示を記憶し、反省した経験を忘れないこと ・何もせずにじっと待つこと、利得や目的なくがんばること ■人と違うところ:「失敗すれば、気づく」…? ・ADHDのある子はワーキングメモリや短期的な記憶が弱 く、忘れ物など、他の子達のように「本人が困れば、次は気をつけるだろう」と思っても、その経験を忘れてしまう。 【接し方のコツ】反省を期待せず、合理的に工夫する
LD/SLD(限局性学習症)
●学び方が違う子 ・集団教育での学び方(一斉授業、学年別学習、講義型授業、 読み書き中心...など)が合わず、「勉強ができない」などと思われがちだが、その子に合った学び方ならできる。 ・学習に必要な「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」ための脳の機能の一部、または複数に局所的な苦手さがあり、知的障害とは異なる。 ・主なLDに、読字障害(読み書き障害、ディスレクシア)、書字障害、算数障害があり、特に「紙と鉛筆」では負担がかかりやすい。 【得意な学び方の例】 ・体感/体験型の学習 ・ICTを活用した学習(動画、ワープロ、学習アプリなど) ・読みが苦手→聞く・触るなど得意を活かした学習 ・個別最適化された学習、無学年式の学習 【負担になることの例】 ・読字障害→みんなの前での音読、手書きプリント、長文 ・書字障害→大量に字を書く課題(漢字書き取り、作文等) ・算数障害→九九や公式の暗記、素早く正確に計算する ■人と違うところ:「がんばれば、できる」…? ・特にLDがある子は、学習に関する脳の部分に局所的な弱さ・強さの偏りがあり、「たくさん練習すればできる」と大量の宿題や反復練習を課すなどしても学習効果は低い。 【対応のコツ】努力で解決せず、その子に合った方法を
発達障害グレーゾーン
●「努力でギリギリ乗り越えられる壁」がある子 ・発達障害の特徴がいくつか当てはまるものの、医学的な診断基準を満たさないか、経過観察中・未診断などで、明確な診断名がつかない子達。 ・教室では、診断のある子に比べて問題行動が目立たず、一見「普通の子」に見えたり、困っていないように思われがちだが、みんなと同じようにするために、本人の過剰な努力で補っていることも(「障害物」までにならないものの「努力でギリギリ乗り越えられる壁」があると考える)。 ・そのため、周囲も本人も気づかないうちに疲労やストレスを蓄積し、突然燃え尽きたり、荒れたり、不登校になることも。また、感覚過敏等が併存していることも多い。
知的障害(知的発達症)と境界知能
・生まれつき全般的に知能の遅れがあり、日常生活に支障がある状態。概ねIQ(知能指数)70未満で診断される。医学的には発達障害に含まれるが、福祉行政では別に区分され「療育手帳」の交付対象等となり、公的支援が受けられる。 ・知的障害の診断基準を満たさないものの、IQ70~84程度に位置する子は「境界知能」と呼ばれる。全体の約14%程度存在すると推計されるが、必要な支援が受けられない現状。
DCD(発達性協調運動症)
・極端に不器用、運動オンチなどの印象。脳と身体の動きを連動させる機能が弱く、努力してもみんなと同じように動けないため、体育や運動会の練習での「全員できるまで」などの指導で特につらい思いをしがち。 ・体育だけでなく、書字や身支度、姿勢の保持等、様々な場面で時間や負担がかかる。 ・ASD、ADHD、LDなどと併存している場合も多い。
トゥレット症
・運動と音声のチック症状が慢性的に継続している状態。運動機能を調節する脳機能に支障があり、本人の意志に反して、瞬きや首をかしげるなど身体が勝手に動いたり、状況に関わらず奇声や汚言を発してしまう...など。 ・生まれつきの体質によるものだが、ストレスがかかると悪化することも。
感覚過敏とHSC
・五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)のいずれか、または複数が過敏な体質で、発達障害にも併存しやすい。 ・例えば、聴覚過敏のある子は、騒がしい教室、音楽の授業、大きな音などが負担になりやすい反面、人の話をよく覚えている、感受性が豊か...など、強みになることも。 ・医学的な診断名ではないが「HSC」「人一倍敏感な子」等と呼ばれる子は、感覚過敏に加え、感受性が強く共感力が高いため、空気を読みすぎて集団生活で疲れやすい。優しく協調性豊かだが、例えばクラスメイトが目の前で叱責等をされる姿を見ると、自分まで叱られた気持ちになる…など、集団生活で不安や負担を感じやすい。
愛着障害
・乳幼児期の養育者の不適切な関わり(虐待、ネグレクトな ど)や離別などによって、健全な愛着関係が築けなかったことにより、成長してからも感情の安定が難しく、社会面などで支障がある状態。後天的な要因によるものだが、「第4の発達障害」と呼ばれることも。 ・人との関わりを拒絶したり、過度になれなれしいなど、他人との適切な距離感が取れない、感情のコントロールが難しい、多動的...などの傾向から、ASDやADHDと誤解されることも。 また、学習体験の不足等から学力低下につながる場合も。 ・後天的なものなので、専門の医療機関での精神的な治療や親子関係の修復等により、回復・改善は可能。
二次障害
・発達障害そのものによる困難さではなく、それによって、 失敗・叱責体験を積み重ねたり、周囲とうまくいかなかったり、過剰に頑張りすぎたりした結果、不適応や精神疾患、問題行動などの二次的な障害が生じている状態。 ・学童期~思春期の主な二次障害には、学習意欲の低下、暴力・暴言、うつ病・適応障害、情緒・行動障害、依存症、非行、自傷他害...などがある。 ・発達障害は生まれつきのものなので、根本的に治す・克服するなどは難しいが、周囲の関わり方次第で「二次障害」は予防・改善することができる。